お城を小さくしたような屋敷の窓から、道を歩く可憐な少女が見えた。
軽く結われたお団子頭と、そこを飾る質素ながらも綺麗なかんざしが揺れる。
遠いながらも聞こえてくる シャン シャン 軽やかな音。
「・・・・葵様?」
窓の外をじっと静かに見つめる主を訝しげに見て、不知火(通称ハウル)は首をかしげた。
学習の時間中、手に持った歴史の巻物をするりと畳に放ち、葵はニタリと笑む。
「さらばっ」
「っああ!」
バッと素早く身を翻し、眺めていた窓からその身を投げる。
背後で叫ぶ不知火の声を聞きながら、葵は三階にある自室から飛び降りた。
オタクだからそれなりに多方面からネタ引っ張るけど
分からなかったらそこだけスルーしちゃってね。
百 合 之巻
女の子は柔かい。
女の子は可愛い。
女の子は小さい。
女の子はいい香り。
「ねぇ、葵様」
ニコリ。鈴の鳴るような声で彼女は私の名を呼んだ。
「ん?なに?」
私の腕に絡まる柔らかな彼女の腕に優しく触れながら目を向ければ、少女は愛らしく顔を赤らめた。
彼女との身長差はそれほどないものの、甘えるように上目遣いで私を仰ぎ見てくる。
ああ、女の子ってなんて可愛い生き物なんだろう!(私が同性だなんて嘘みたい!)
「と、いうわけなんだ」
「どういうわけなんですか」
憮然とした顔で不知火は私を睨んだ(若干涙目のままで)。
窓から見ていた女の子、ねねちゃん。
その後に茶屋で見つけた女の子、お菊ちゃん。
そしてぶらり立ち寄った公園でゲットした三人目の女の子とのデート中、
私を捜索していた不知火隊(黒和服の男が総勢十二人。まるで何処かの死神・・)
にあっけなく捕まり自宅まで連行されて
(拾壱の番号を背負った人が超怖かったんだけどっ!)、
子供のようにお説教タイム中。
「おふざけが過ぎます!病みあがりであんな高さから飛び降りるだなんて!」
「はい、すいませんすいませんっ」
「まだ目覚めたばかりのお体なんですから・・お遊びはもう少し体を休めてからにしてください!」
「はい、すみませ・・え?」
「せめて今日一日!今日一日だけはゆっくりなさって、ナンパは明日からご自由に」
「ナンパいいの?!」
しかも「ご自由に」って・・そこは止めようぜ付き人よ!!
私はもちろん、不知火の背後に控えた不知火隊の皆さんですら
「いいの?!」
と驚きを隠せない顔で渦中の彼を凝視している(ただ拾壱の怖いお兄さんは興味なさ気・・)。
だが彼の顔は大真面目だった。
「ナンパも女性とのお遊びも一向に構いません」
「マジでか?!」
どうしようコイツ真面目だ!
もしや・・・ド天然?!
「おまっ・・よりにもよって天然かよ・・・」
「天然?何がですか?」
私の言葉にキョロキョロと周囲を見渡す様は「天然」以外の何者でもない。
周囲を一通り見渡した不知火は首を傾げてから、おもむろに懐から黒皮表紙の手帳を取り出した。
「それで、坊ちゃま」
「ぅ、んん?」
また出たよ『坊ちゃま』呼び・・・ついさっきまでは『葵様』だったのに
コイツの呼び名を変える基準は一体なんなんだ・・。
不知火は手帳を捲り、高級そうな万年筆を構えて問うた。
「本日陥落させたお嬢様方のお名前と連絡先、もちろん聞いてありますよね」
「は、ハイ・・・」
それを、答えろと?!
もちろん不知火隊に捕獲される前に教えて貰って、メモるわけでもなくしっかり記憶しておりますが!
つか「陥落」って、「陥落」って・・・私は城でも落としたのかっ!?
「坊ちゃまといられたあのお嬢様、一見しただけの判断に過ぎませんが・・」
それまで手帳に向けられていた不知火の視線が、真っ直ぐに私を貫いた。
「漆薔薇財閥のご令嬢、“漆薔薇ゆりか”様ではございませんか?」
「・・・・・ウン、ソウイウ名前ダッタ」
ある意味、城、陥落させてました(“ご令嬢”って聞き慣れねえ単語だなあオイ!)。