第一期 とある男の独白
なんなんだ。
いったい何者なんだこのガキは・・!
『死神』
全身を漆黒で包み、無口、無表情。
一寸の隙も容赦もない、地味でありながら力の差を歴然とさせる戦闘の仕方。
少しずつ、少しずつ。
確実に上へと上ってくる。
その不気味さに、いつからか「死神」と呼ばれはじめたガキ。
いや、ガキだってもう一人、ちっこい凄えのがいるが・・・あれだって多少は怪我してる。
苦戦しての一勝が何度かある。
だが「死神」は、どうみても、余裕だ。
その戦いには恐怖を覚える。
何人かは気付いているだろう、「死神」の意識された戦い方。
片手、片足。
使うのはそれだけで、試合によっちゃ片手のみの時すらある。
『死神 ホムラ』
恐ろしい通り名だ。
このガキと試合で戦い死んだ奴は一人もいねえ。
噂じゃ“狩るべきたった一人”を探しているらしい、って・・。
どんな大男も、それは自分じゃないのか、殺される一人は俺じゃないのか、内心では怯えている。
まあ最も、ただの賭け好きな常連観客の一人である俺には関係のないことだ。
リングで誰が勝とうと誰が死のうと、俺が賭けに勝てればそれでいい。
はずだった。
「アレック、百五十二ジェニー、くれ」
すっと差し出された手。
「な、なんで俺が「現金は持ち歩かない主義なんだ」・・ちくしょう」
言われた分の金を素直に渡して、自販機へ走っていくその黒い背を目で追う。
そう、俺から小銭をカツアゲして行ったのは、正真正銘「死神ホムラ」だ。
なんの因果か、呪いか、すっかり懐かれてしまっている。
周囲の好奇心やら畏怖やらの目が痛い・・。
「ん、これ美味い」
買ってきた炭酸ジュースを品評して飲む姿はただのガキ。
ホテルでだらしなく寛ぐ姿もただのガキ。
子供用ドリルと鉛筆を片手に、唸りながら文字の書き取り練習をしている姿もただのガキ。
「アレック!アレック!」
興奮した声に呼ばれて振り向けば、ドリルに書かれた「アレック」の名。
まだ拙い、それこそ五歳児が書いたような字に思わず噴き出した。
「あっはっははは!下っ手クソだなお前・・!」
「テメーこのヤロー」
ああ、全く、こいつはただのガキだ!
どっこも「死神」らしくねえ!
ある日突然声かけてきて、「文字教えて」だもんな!
一人の観客としてリングを見下ろしていた頃の恐怖感はすっかり消えた。
今は「死神ホムラ」じゃねえ、ただのホムラの友人。
「アレック!」
再度興奮した声に顔を上げれば、ドリルには
『殺すぞ』
「・・・」
「冗談だって、逃げるなよ」
友人、だけどまだ、たまに怖い。