まずはハリーたちに見つからないよう、慎重に慎重に洋裁店を目指す。

店に着いたとき、周りにはハグリットもハリーもいなかった。
中を覗き込んでみても居る様子はない。
オレは静かに扉を押した。










     S h a l l   w e   d a n c e ?  〜夢とダンスを〜   StEP,10










「いらっしゃい坊ちゃん、ホグワーツ?」

この前の時のようにマダム・マルキンが愛想よく来た。

「はい、そうですけど、今日は安全手袋を買いに来たんです」

「あら、ローブはもう買ったの?」

「えぇ、1ヶ月程前に此処で買いました。手袋も買ったんですけど、実験に失敗して溶けちゃったんですよね★」

あははっと全く困っていないようなしれっとした表情で言って退けたものの、話した内容は全て事実。



2週間前、教科書やセブルスの秘蔵書を読んで魔法薬学に興味が湧き、頼みに頼んで地下の研究室を1時間ほど貸してもらった。
その時にもちろん、心配性なセブルスの命令でアノ溶かしてしまった新品の安全手袋を着用していたのだ。

この日のためにダイアゴン横丁やノクターン横丁で(もちろんセブルスには秘密で)買い集めておいた薬草や牙など。
オレはフルに最大限活用した。

その結果
―――
真っ赤に煮えたぎった鍋からは黒煙がたち込める。
その煙が研究室を覆う頃には緑色に変色した鍋の中身が溢れ出て、まるで生き物のように襲い掛かってきたのだ。

いや、流石のオレでもこんな訳分かんない物体Xに襲われれば恐いし、人並みに驚く。
つい叫び声を出し、それに慌てて来たセブルスに助けられた。

その後は2時間程みっちりとお説教。
もちろん、オレ一人での研究室の使用は今後一切禁止となった。

「一体っ、何をどうしたらこんな状況になるんだ・・・」

呆れ半分怒り半分のセブルスの言葉に、オレはこの時だけは何も言えなかった。



今目の前で目を丸くしているマダム・マルキンも、きっとあの時のセブルスと同じことを考えているんだろう。
ドラゴンの皮で作られた頑丈な安全手袋が、ホグワーツ入学前の子供によって溶けたのだ。
驚かないほうがオカシイ。

「そ、そう。それは大変ね・・・。じゃぁ安全手袋1つ、お会計しましょう」

さっきまでの愛想のよさはどこへいったのか。
多少引きつった笑みを浮かべ、マダム・マルキンはオレをレジへと進めた。

「あ、2つお願いします。また溶けそうだから」

これにもまだ笑みをなくさなかったマダム・マルキンの商人魂に、敬服。

レジへ向かった時、運が良い事にお目当てのプラチナブロンドも会計をしていた。
マダム・マルキンとは別の店員がローブや帽子を袋に詰め込んでいる。
オレはドラコの居るレジの隣に、何食わぬ顔をして立った。

「やぁ、君もホグワーツかい?」

単純すぎるぞ、ドラコ・マルフォイ。
いくら相手が子供でも、そう簡単に知らない人に声かけるなよ。
君は一応名家のマルフォイ家のご子息なんだからね、ヴォルさんらが襲わなくてもオレはある意味襲うぞ

オレのそんな心中を知らぬドラコに、自然とハリーの時よりは幾分か愛らしい笑みを返した。

「うん、そうだよ」

途端にドラコの青白い頬がサッとピンクに染まった。

(ぴ、ピンク・・・・・・)

ドラコの初めて見る初々しい表情に、オレはハリーに続きまたも母性本能をくすぐられた。
そして彼が大きな勘違い(本当は勘違いじゃないけど)をしている事に全く気づかなかったのだ。

「僕はドラコ・マルフォイ、君は?」

ドラコはハリーに対した時とは違い、随分と紳士的な態度と口調で接してくる。

「アキラ・カミシロ。アキラでいいよ、よろしく」

「僕もドラコでいい」

差し出された手を握り返すと、ドラコの頬がまたピンクに染まった。

そうしている間に安全手袋だけだったオレの会計は済む。
出来ればこのままドラコと行動して、せめてルシウス・マルフォイとはお近づきになりたい。
手袋の入った袋を受け取りながらチラリと隣のドラコの様子を伺う。
会計は直ぐにでも終わりそうだし、荷物も多い。
オレはニヤリと笑ってしまいそうになる顔をなんとか抑え、いかにも親切そうに言った。

「ドラコ、荷物多そうだから手伝うよ」

「えっ」

意外なオレの言葉にドラコは素直に驚き、少し悩んだ後に頷いた。

「分かった。じゃぁ隣の書店まで頼む、父が居るんだ」

「うん」

考えどうりに事が進み、ドラコから比較的小さな荷物をもらって隣を歩く。

嗚呼、ドラコがいる。
今からルシウスに会・え・るw

洋裁店から隣の書店までの短い距離を他愛のない会話をして歩き、書店に入ってからルシウスを探す。
その間も話は尽きず、ドラコも家柄を自慢したりだとか、オレが純血かを気にしたりだとかしなかったから、結構楽しかった。


「あ、父上!」

隣を歩いていたドラコが突然前へと走り出し声をあげた。
とうとう来たかと、ドラコとの楽しい会話に緩んでしまっていた気を引き締める。
ルシウスは曲がりなりにも元「死喰い人」で、現在もヴォルさんが復活すれば直ぐにでも闇の陣営にまわる気のある男だ。
喰われないように、なるべく気に入られるようにしないといけない。
この男の背後には、確実な“死”がある。

「父上、アキラという。洋裁店で会って、荷物を運ぶのを手伝ってくれた」

「・・・そうか、息子が世話になった」

「いえ、軽い荷物運んだだけですから。アキラ・カミシロといいます」

ここまでは何の変哲もない軽い会話。
だけど、ルシウスの視線が痛い。

「カミシロか・・・。君は日本の生まれか?」

「はい」

「失礼だが、純血か?」

自分の父の言葉に、ドラコがはっと目を見開く。
ドラコと会話しているときには来なかった質問だが、ルシウスには聞かれるんじゃないかと思っていた。

この日、この時の為に考えておいたことを、ありのままに話す。

「日本は小国ですし、魔法というものよりは陰陽術の方が主流です。
ですが、それも今では魔法界でいうマグルの方が人口の大多数を占めていますから、純血は全くいないと言っていいでしょう。
実際、ここで東洋人を見かけませんし」

一気に話してから、この世界に来て今迄で、一番緊張している自分に気づいた。
不思議と頭の芯は冷えていて、それが酷く冷静に状況を考えさせてくれる。

「・・・・・ならば君は、純血ではないということか」

「多分そうだと思います。・・・私は親がいないので、本当のところは分かりませんが」

頭のキレる相手に下手な嘘は言わない。
オレには“この世界”で親はいない。
元の世界にならば実の、魔法なんて使えない、普通の親はいるけれど。

オレの話を聞いて難しい顔をしていたルシウスとドラコだが、ルシウスが意外な、だけど至極尤もなことを言った。

「・・・日本には古くから、魔法とは違う陰陽術というものが流通しているのは知っている。
文化が英国とは違うのだ、純血かどうかも日本人にとっては関係のないことだろう」

「・・・・?」

言葉の意味がいまいち分からず困惑したオレに、ルシウスは手を差し出して再度口を開いた。

「息子と・・・ドラコと、ホグワーツで仲良くしてやってくれ」

その言葉に思わず目を見開く。
認められたのだと、嬉しくて叫びたい衝動に駆られながら、オレはルシウスの手を握った。

「はいっ、もちろんです!」

父親の隣で、ドラコが安心したような、だけど恥ずかしそうな顔をしていた。