仁王先輩
兄の通う立海大附属中等部へ入学してすぐ、この学校でのテニス部がいかに影響力をもったものなのかを知った。そして、今まで知らなかった、実の兄の人気っぷりも。
「あ、ねえ!」
「わっ、こんなに近くで見るの初めて!」
「やだ格好いい〜っ!」
普段通りの休み時間、雑談で満たされるクラス内で、急に女子たちが黄色い声をあげた。男子は何事かと女子の目線を追い、ああ、と納得する。
「「「カッコイイ!仁王先輩っ!」」」
キャー!なんてミーハーな声があがる、そんな彼女らの熱い目線の先。移動教室なのか、一年生のクラス棟で普段は見かけない三年生の姿。教科書を小脇に抱えて、友人と談笑しながら廊下を通る。格好いい、素敵、仁王先輩。後輩たちの途切れない賛美。こっち向いてくれないかなぁ・・なんて恋する乙女のような声まで出て、
「・・・っ」
声を出さなかった自分を、褒めて欲しい。自分のクラスから見られるその兄の姿が壁に隠れて見えなくなる、その一瞬、チラリと目だけが、広いクラス内の窓際で、声も出さずに何となく騒がれているなぁと見ていただけの、私の目を確実に捉えて笑った。ちょ、ちょっと待て。なんで私を見る。なんで私の位置を正確に把握してる。これが噂に聞いた詐欺師仁王の手?え、きもい。
「わぁ〜・・噂のニオウセンパイ、初めて見た」
のほほんと、少し舌足らずな可愛い声で友達が笑う。
「ホントにかっこいいね〜」
暢気な彼女の声は素直な賛辞だけで、他の子みたいな憧れや恋心なんかはない。だからこそ安心した笑みを返せる。そうそう、あんなシスコンやめときなさい。学校じゃ私が呆れるくらいに完璧でクールだけどね、家じゃホント、ファンの子に申し訳なく思うデレデレさなんだよ。あんたにはもっと幸せいっぱいにしてくれるような、誠実で素敵な人が似合うからね、うん。なーんて、お母さんみたい。
「・・・・・ねぇね、ミヤちゃん」
少し思案した様子を見せてから、やっぱり柔かい笑みで私の袖を引く可愛い友達に、
「なぁに?」
私らしくもなく柔かい返事で言葉を促せば、
「ニオウセンパイって、ミヤちゃんと似てるねぇ」
うふふ、楽しい発見をしたように笑う。
「・・・そう、かな・・」
「うん、なんかねぇ・・・ちゃんと見れなかったけど、似てるなぁって」
うっわぁ・・・さすが、面倒くさがりで会話も碌にしない私なんかの友達をやっているだけある。天然故の急所を突く指摘。兄が口酸っぱく私たち兄妹の関係は秘密だと騒いで煩いから、唯一の友達であるこの子だって、もちろん私と兄のことを知らない。知るはずがない、のに・・・友達ののんびりした笑顔を見ていて、それも時間の問題だなと痛切に感じた。