少年ハート
静かな校内、空き教室で赤也が持ってきた漫画を読むひと時。皆はまだ授業中。俺らはサボり。世界史の先公は何言うとるか全く分からんで苛々する。だからサボり。
「なぁなぁ、あのさ」
ずっと暇そうに窓の外を眺めていたブンちゃんが突然声を出す。窓の桟に体重かけるように身を乗り出して、何かを食い入るように見ていた。俺が座っている位置からじゃ何を見ているかは分からない。
「どうかしたんスか?」
赤也が興味深そうに身を起こしてブンちゃんの隣に立つ。
「俺さ、ずっと気になってた子がいてさ」
あそこ、と指差す方を赤也が凝視する。
「え、え、どの子っスか?!」
先輩が気になるという子が、後輩も気になるらしい。同じ思春期の男じゃ、無理もない。そう思う自分も気になって、妙に気になって、赤也の漫画を放った。重たい腰を上げて盛り上がる二人に近付く。
「ほら、あの子だよ!背の高い・・」
「あ、あのキレイな子っスか?!」
窓に触れられる距離まで来れば、外からの喧騒が耳に入る。二人の目線の先にはジャージ姿の女子生徒たち。色が、鮮やかな色が目に飛び込んでくる。
「そうそうあの子、俺ずっといいなって思っ・・・」
全開の笑顔を向けたまま、ブンちゃんは石のように固まった。つられたように赤也の顔も引き攣ったように固まった。
「・・・どうしたんじゃ?」
低い声が響く。自分でもどこから出てきたのかと思うほど、低い低い声だった。
「・・ぇ、いや・・・」
「にお先輩、顔、怖いっス・・」
二人の硬直した顔が窓に映る。その隣り、確かに穏かじゃない俺の顔がいた。しょうがなかろう。ブンちゃんが悪い。なんで、なんでよりにもよって、
「あの子はダメじゃよ」
「え」
窓の中の顔が揃って戸惑う。
「ダメじゃよ」
次は目線を合わせて、はっきりとした警告。あの子はダメ。絶対にダメ。ブンちゃんはいい奴じゃけど、あの子だけは誰にもやれん。まだ、まだ、俺だけの可愛い子でいさせてくれ。
「のぅ、ブンちゃん・・」
「は、はい」
「男って、タイヘンな生き物じゃね・・」
「・・・は?」
最近、心底そう思うわ。可愛い可愛い俺の妹。俺のミヤ。俺ってこんなに馬鹿な奴じゃったか?こんなに阿呆な男じゃったか?あの子に惑わされる、あの子に踊らされる、そんな毎日が続く。それが、嫌じゃないから困るんじゃ。