skylineで恋をして
■その10
【阿散井恋次の場合】
正直、「嫌いか?」と聞かれれば、「嫌いじゃない」と答える。
なら「好きか?」と聞かれれば、「好き」、なんだと思う。
進んで踏み込もうとは思わないが、そこにあれば手を伸ばしてしまう。
無性に喰いたくなる。
熱く溶けた甘さに舌を這わせて味わいたい。
ふわり、不意打ちでくる甘い匂いも堪んねぇ原因の一つだ。
たまに、“男のくせに何考えてんだ”って我に返るときもある。
だけど、「好き」、なんだよ。
「・・・・・チョコレートの話だよな?」
フォークを銜えて口の端にチョコをくっ付けた、なんともガキっぽい状態のままで、幾分か首を傾げて一護が問うた。
その様子がちょっと「可愛いな・・・」と思った事実は墓の中にまで持っていく。
俺はこの若さで死にたくない。
「あ?それ以外にあるか?」
「いや・・」
長い間使われていなかった(これからも使う予定のなかった)キッチンを嬉しそうに使い、
もうお前プロ級なんじゃ・・
と感嘆するほど美味いチョコレートケーキを作り上げた一護は、その力作を食べながら恋次にこう聞いた。
『甘いモン好きか?』
聞かれたから恋次は答えた。
『ああ、好きだぜ』
そして上記の話になるわけである。
恋次なりの甘いもの、もとい、チョコレート談義。
納得したのかしてないのか曖昧な表情のまま、一護はフォークを進める。
ぱくり、幸せそうに目元が緩む。
やっぱり可愛い。
恋次も自分のフォークを進めて味わう。
うん、美味い。
一時間もかけず二人でワンホール食い終わったときだ。
かちかちかちかち。
部屋の隅から小さく規則的に聞こえてくる秒針の音。
時刻は六時四十分を指していた。
「え。メシは?!」
「んあ?」
まさかこのケーキが夕飯だなんて言わねえだろうなこの超甘党は・・!
恋次の危惧したことは少しばかり当り、後はハズレ。
「メシ・・・?」
きょとん。
考えもしていなかった単語をぶつけられ、やはり口の端にチョコを付けたまま一護はゆっくりと視線を下に向けた。
そこには僅かなスポンジの欠片と、フォークで拭いきれなかったクリームがそのままの皿。
チョコレートケーキの残骸である。
一護の視線を追った恋次は、その意味を悟って固まった。
「ケーキか・・・?」
「・・・腹、いっぱいだし」
「俺は減ってる!!」
世間の女が言うような、「甘い物は別腹よw」なんてことは言わない。
ケーキワンホールの半分も食べれば、そりゃそれなりに腹は膨れる。
だけどデザートはデザートであって、メシじゃねえ!
一護は普段からそんなに量を食わない。
まあ一般男子が食うぐらいの量なら食べるが、恋次の場合は違う。
食べる食べる食べる。
とにかく食べる。
体が大きい分のエネルギーを補給しているのだろうか、その量は半端じゃない。
おかげで未だに身長が伸びている気がする・・・もう十分デカイというのに。
「夕飯!夕飯が食いたいんだ俺はッ!」
「・・・はいはい」
ちゃんとした夕飯を主張し始めた恋次を疲れたように見やって、一護はゆっくりと重い腰を上げた。
どうやら何か作ってくれるらしい。
途端に目を輝かせ、恋次は興奮したように言った。
「ハンバーグ食いてえ!」
「ファミレス行け」
一刀両断。
恋次には料理のことなどてんで分からないが、一護の軽くキレた様子を見たところそう簡単に作れるものじゃないらしい。
ケーキを作った時と同じように、一護が普段家で使っているという持参してきた黄色のエプロンを着ける後姿を見ながら、
ハンバーグじゃなくても、自分の為に誰かが何かを作ってくれるという行為が事の他嬉しいもんなんだなと、改めて実感した。
追伸。
初めて食べた“キムチ鍋”は超うまかった!!
やっぱりこいつプロだ・・!
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