skylineでをして   



■その12
 【
阿散井恋次の場合】





少し離れた祭りの会場からは、まだまだ賑わう音がする。

「お兄ちゃん、気持ち、悪い・・・」

青褪めた顔で一護の手を握った茶髪の方の妹(確か・・・ゆず、ちゃん)に、「お兄ちゃん」は血相変えた。
どうやら人混みに酔ったらしい。
ゆずちゃんを気遣いながら急いで近くの寂れた神社に向かう道すがら、黒髪の比較的一護に似ている方の妹
(かりんちゃ・・じゃなくて、かりん。“ちゃん”付けしたら文句言われた)が、
前を歩く二人に聞こえないよう声を潜めて俺に言って来た。

「・・・ねえ、なんか見られてない?」

「は・・?」

それは、俺や一護の髪色を奇異の目で見る奴らの事を言っているんだろうか。
というか、ソレしかないと思う。

「・・・目立つからな、俺も一護も」

悪いなと思いつつ苦笑気味に言えば、かりんは妙な顔で頷いた。
年頃の、まだ小学生の女の子だ。
大好きなお兄ちゃんが嫌な目で見られるのも、自分の方に視線が向くのも不快なんだろう。
その時はそう思った。

ちらほらとしか人のいない、落ち着いた静けさのある神社。
そこの少し冷たい石段に四人揃って腰を下ろす。

「ごめんね、みんな・・・」

具合の悪そうな顔をますます歪めて謝るゆずちゃんに、三人が首を横に振った。
気にしなくていい、と。

「しょうがないって、こんなに人が多いんだもん。みんなヒマなんだね」

溜息一つと共にかりんがそう言えば、ゆずちゃんはようやく小さな笑みを見せた。
それに男二人は安堵して、顔を突き合わせて苦く笑う。
こういう時、男という生き物は気の利く言葉一つでさえかけるのが難しい。
言葉には出来ない、が行動には移せる。

「なんか冷たいもん、買ってくるか?」

腰を上げながらそう言えば、慌てたように一護も立ち上がった。
妹二人はきょとんと座ったまま見上げている。

「いや、俺が行くから、恋次はこいつら頼む」

その真剣な目はお兄ちゃんとして、苦しんでいる妹に何か一つしてやりたいらしい。
笑い出したい衝動を抑え込んで注文した。

「んじゃ、コーラ」

「私はお茶でいいよ」

「ぁ、じゃあ私もお茶・・」

気遣いたいお兄ちゃんの心情を察したのか、意外に鋭い妹たちは何も言わずに注文だけした。

「ん。すぐ来るからな」

そう言って背を向けた一護。
駆け足で人混みに紛れたあいつの橙頭は、そのまま見えなくなった。
一護が視界から消えたその瞬間、俺は言い知れぬ不安を感じた。
漠然と胸の中に影が差す。
何だ?
何が不安なんだ?
何か・・・間違えてないか?


『・・・ねえ、なんか見られてない?』


あの時のかりんのあの表情、変じゃなかったか?
ついと視線を移したその先で、やはりかりんはあの時と同じ、妙な顔をして一護の消えた先を見ていた。
心配そうな、不安そうな・・・むしろ怯えているような表情。


『・・・ねえ、なんか見られてない?』


あれほど疎ましく煩く感じていた視線も、寂れた神社では全くない。
いや、寂れていても自分たちと同じように、休憩目的の人間がちらほらいる。
だが絡みつくような視線は、ない。

「・・・・・お兄ちゃん、遅いね」

思わずといった風にゆずちゃんの口から漏れた、心配そうな声。
かりんがゆずちゃんを見た後に、俺を見て、一護の消えた先をもう一度見た。
その視線に釣られて同じ方を見る。
そこからあの橙頭は、見える気配すらない。
曖昧な
不安が確かな確証に変わりつつあった。









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