skylineで恋をして
■その16
【黒崎一護の場合】
警察だ!
響いた声に不良たちは一目散に逃げて行ったが、
俺も先生も警察に厄介になるのはヤバイんじゃないかと、反射的に体が強張った。
『自分たちも逃げる』という選択肢を思い、目の前に塞がる逞しい背中を見るが・・・動かない。
そればかりか先生は、俺たちの背後にいるであろう警官に怒鳴った。
「ウルキオラぁあああ!!」
その声に影から出てきたのは警官ではなく、スーツを着こなした黒髪の男だった。
先生の知り合いらしい男は喧嘩腰の先生と二言三言会話して、唐突に俺の方へ向いた。
「一年五組の黒崎一護だな。左腕以外に傷は?」
「ぇ、あ、いえ。他はないです・・」
「そうか」
誰、だろう・・・教師?
内心で俺は首を傾げていた。
見たことがある気がするし、俺の学年も組も名前も相手は知っていた。
だけどやっぱり・・知らない人。
ただでさえ俺は人の顔も名前も覚えるのが苦手だ。
実の所、自分自身の担任・・・目の前で不機嫌そうにしている水浅葱の先生の名前すら、知らなかったりする。
「喧嘩は見逃してやるが、反省文はしっかり書かせろよグリムジョー」
黒髪の男の言葉に、先生は「ぐっ・・」と息を詰まらせた。
ん?
“グリムジョー”・・ああ、そうだ。
先生の名前だ。
濁音の多い格好いい名前。
グリムジョーグリムジョー・・・グリムジョー先生。
「喧嘩は、見逃すって・・・真面目クンのお前が気前いいじゃねえか。何考えてやがる」
苦虫を潰したような顔でグリムジョー先生は唸った。
黒髪の方の・・やはり教師らしい男は、「フン」と鼻で笑ってから何とでもないように口を動かす。
「お前には勿体無いほど黒崎一護は成績も態度も優秀だからな、どうせ喧嘩は売られたものだろう」
「て、てめっ」
「事実だろう。違うか」
後半は問うようにこちらへ顔を向けたので、俺は慌てて首を縦に振った。
黒髪の先生が言った「喧嘩は売られたもの」は事実だったし、ここで喧嘩のことまで処罰されるようになったら堪らない!
にしてもこの人は、俺のことを褒め過ぎだと思い・・少し顔が赤らんだ。
「で、お前、一人か?」
グリムジョー先生が煙草を取り出して、銀に鈍く光るジッポで火を点けながら横目で聞いてきた。
その様になった仕草に見惚れる間もなく、俺はあることを思い出す。
『――可愛い妹たちに何かあったら困るだろう?』
下卑た笑みを浮かべて、あの男はそう言っていた。
「まさ・・か・・・」
「黒崎?どうし・・」
俺の顔を覗き込んできた先生に構わず、俺の脚は走り出していた。
後ろから先生の慌てたような声が聞こえたけど、急がないと・・急がないとアイツらが!!
心臓の音がバクバク五月蝿くて、必死に動かしている脚もいつもより遅い気がして、血の気が引いていくのが分かる。
恋次が側にいるはずだから妹たちは大丈夫だろう・・・けど、もしかして何かあったら?
何かあって、恋次が怪我したって、それは・・そんな、こと・・・!
「っくそ・・くそぉ・・!」
急げよ・・急げよ俺ッ!
・・・俺なんかどうでも良かったのに!
小さな神社の砂利を蹴るようにそこへ駆けつけたとき、まだ遠くで祭囃子が鳴っていた。
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