人型をとっていようと、その中枢が虚であることに変わりはない。
獣よりも厄介な短絡的、暴力的、利己的な本能のみで体は動く。
まるでケダモノだ。
虚圏の味気ない月を見るのは、果たしてこれで何度目だろうか。
虚夜宮の何処か一室に囚われたあの日から、少なくとも一ヶ月分の時間を過ごした。
俺をとっ捕まえて殺そうともせず、だからといって毎日のように傷を付けにやってくる破面。
凶暴な水浅葱は何を考えているのかさっぱり分からない。
昨日は古傷を抉るように新しい傷を付けられた。
一昨日は右足を裂かれた。
その前は、確か・・・何もしなかったんだ。
気まぐれのように何もせず、ただ顔見て、一言二言だけ言葉を交わしていく日もある。
そんな時は決まって、アイツは困ったように笑う。
泣こうが喚こうが傷付けてくる男が、その日だけは妙に優しく、こっちの機嫌をとるように伺い見てくる。
迷子のガキみたいな目を向けて。
カツン―・・・
虚夜宮の冷たい廊下に足音が響く。
カツン―・・・
ゆっくりこの部屋へ近付いてくるその音はひどく平穏で。
ああ、今日は機嫌がいいんだな。
今日は何もしないんだな。
今日は嫌いじゃないアイツなんだな。
自然と強張っていた体の力が抜ける。
カツン―・・・
足音だけで分かるようになった、今日の俺の運命。
本日は天国行き。