どうして、どうしてこんな状態になったのか・・。
グリムジョーの片腕で悠々と抱きかかえられた一護は何度も自問自答した。腰にまわる逞しい腕の主が一歩進むたびに自分の宙ぶらりんな足が揺れる。
「ぅうっ・・何でこんなことに・・・」
いくら暴れても怒鳴っても全く歯が立たず、今や一護は完全に意気消沈していた。グリムジョーはその様子を可笑しそうに見やりながらも歩みを止めない。
「・・・何処行くんだよ」
迷いなく進んでいく足に不安を感じ、ようやく一護が行き先を聞く。
「俺んチ」
至極当然のことのようにあっさりと告げられたその言葉を、一護は「へ〜・・」と聞き流す所だった。虚圏、虚夜宮、破面関係の場所を色々考えての質問だったのに、返ってきたのが
「俺んチ」
の一言。それは・・・なんだ、虚圏にあるお前の家(つか宮だろコイツらの場合)のことを言っているのか?まぁそれしか考えられねえか・・・・ってことは虚圏行きじゃん俺!
「ぉ、下ろせバカ!」
「ハイハイ、後でなー」
気を取り直したように再度暴れだす一護を、グリムジョーは笑いながら宥め賺して、目的地へとしっかり到着したのだった。
「・・・・・ぇ、ここ?」
「ココ」
ちゃり、と。破面にはあまりにも似合わない銀の鍵(ご丁寧にウサギやら鈴やらのストラップ付き)を取り出して、目の前にある銀の扉を開けたグリムジョー。一護の目にはどう見ても、普通のマンションにしか見えないここ。
「オラ、下ろすぞ」
「ぇ、お、おう・・」
開いた扉の先が虚圏にでも繋がっているのかと思ったが、拍子抜けするほどに普通のマンションの小さな玄関だった。中に入ったところで簡単に解放されてしまったし、考えられなかった事態に脳が情報処理に追われている。
「こっち来い」
手でおいでおいでをされて素直に従い奥の部屋へと入ってみたが、やはり普通だ。白のインテリアが基調なざっぱりとした室内は、何となく落ち着く感じもする。
「ここ・・お前んチ?」
恐る恐る、オープンキッチンにある冷蔵庫へ手を突っ込んでいる破面(オープンキッチンとか似合わねえ!)に問いた。
振り返った水浅葱は片手に瓶の炭酸水を器用に二本持って頷く。
「俺んチ」
この破面はどうやら、現世にわざわざ自分の家を持っているらしい・・・。
呆然と立ち尽くした一護に向かって真っ直ぐにやって来たグリムジョーは、ぐぐっと顔を寄せてきて今までにないくらい真剣な顔をして言った。
「ここで毎日俺の味噌汁を作ってくれ!」
え、どうしようこのバカ。
この状況が、どうか夢であれ・・・。
鮮やかな水色のエプロンをして白いオープンキッチンに立つ新妻・・もとい、一護。彼の手には料理の定番アイテムであるオタマが一本、くるくると鍋の中を掻き混ぜている。
「いちごぉ、メシ〜」
盛大な欠伸とともにやってきたこの家の主を一護は軽く睨んで、それでも律儀に「顔洗ってこい」と言うのだった。その言葉に素直に頷いた家の主・・グリムジョーは、その身を大人しく義骸に宿してはいるもののパワーと霊圧は迷惑なことに変わらず。
「藍染サマが作った奴だから、これ」
「お前・・・そんなこと言って殺されねえの・・?」
いけしゃあしゃあとのたまった時には藍染が殺しにくるんじゃないかと戦慄さえ覚えたものだ。詳しく聞けば、藍染の作る物にはどこかしらの欠陥があるのが当たり前らしい(自分の生み出した破面にそんな印象持たせておいて大丈夫なのかよ・・)。
義骸の顔をグリムジョーがさっぱりと洗って来たときには、テーブルの上に二人分の日本の和食が並んでいた。もちろん湯気のたつ味噌汁だってある。
「ここで毎日俺の味噌汁を作ってくれ!」
そんな古いプロポーズするか?普通・・・なんて思ったけど、あの時のぐぐっと寄せてきた真剣な顔。綺麗な形の眉は顰められて、透き通る空色の瞳は一護だけを見ていた。
あの瞳、あの顔に・・・惚れたと言っても過言ではない。
だからこそ、一護は今ここで味噌汁なんぞを作っているのだ。
「なぁ、一護」
甘えた声で擦り寄り唇に一つ、「ちゅう」と可愛いキスされて。それを目を開けたままに受けじっと見ていた一護は、今日もまたこの破面の端整な男らしい貌に惚れた。
夢じゃなくて良かった、かも・・。
これ以上は心臓がもちません。