一護が確かに頷いたのを見て、恋次は決意したかのように一人頷いた。
そして今度こそは一護の目を真っ直ぐに見る。
いつになく真剣な、そして普段見ない一護より何十年も長く生きている大人の顔。
一護は恋次の不意の表情に胸をドキッと鳴らせた。
「一護・・・」
「・・何だよ」
何だか居心地が悪い。
恋次の様子はオカシイし、何よりもその眼差しと声が、ひどく熱っぽく感じるのは気の所為だろうか。
男らしい骨張った右手がゆるりと上がり、一護の左手を掴んだ。
ぎゅっと強く、逃がさないと言いたげに。
「恋次・・・?」
掴まれた手に戸惑いそこを見るかのように視線を下へ向ければ、恋次は不意に一護の体を引いた。
「うあっ?!なっ、なに」
引っ張られるままに一護の体は恋次の固い胸板へ当たり、そのまま強く体を抱え込まれてしまう。
突然の事態に困惑し慌てて体を離そうと藻掻くが、その太い腕に強く力を入れられ叶わなかった。
「れ、恋次ッ!」
困惑に少し怒りを混ぜて声を上げる。
「おい、何してんだよ恋次!」
初めての距離とその否応なく感じる体温に、一護は顔に熱が集まっていくのを感じた。
胸は病気なんじゃないかってくらいにドキドキ煩いし、それを恋次に知られたくもない。
だけど恋次はただ黙って、一護の頭をぐいと強く胸に押し付けた。
「っ、れ、んじ・・・」
ドキドキドキドキ。
それはとても速く音を刻み、一護の体内の音と重なる。
恋次の速い鼓動にギクリと体は強張った。
ダメだ。
これ以上はイケナイ。
これ以上を考えてはイケナイ。
「っ・・なあ、恋次。離れてくんね?」
声が震えたのが分かった。
恋次は離そうとせず、やはり抱き締める力を強めてしまう。
「・・・っなあ!」
離してくれと、震える声で一護は言い、精一杯身じろぐ。
ダメだ恋次。
これ以上は――怖い。
腕の中で暴れる一護を押さえつけ、恋次は漸く口を開いた。
「なあ、一護・・――好きだぜ」
その言葉はストンと、自然に一護の胸へと収まった。
同時に頭の中は真っ白になって、だけども顔の熱がまたカアッと勢い良く上がったのが分かる。
胸に押し付けられた耳から聞こえる恋次の鼓動は、まだ速いままだった。
「・・・れん、じ」
酷く喉が渇く。体中が暑くて熱くてたまらない。
胸の中で渦巻くこのモヤモヤとした感情が何なのかは分かっている。
恋次の言いたいことも分かっている。
答えは、決まっている。
抱き締められたままの体勢で、一護はその言葉を口にするのだった。
「っ!?っぅあああああ!!」
叫び声は家中に伝わった。
全身にびっしょり冷や汗を掻き、呼吸はぜえはあ荒い。
叫びと共に勢い良く起き上がった姿勢のまま数十秒間呼吸を整え(その間に叫び声に心配した妹や父親が戸の前へやってきて騒いでいたが碌に返事出来なかった)、先程まで自分の置かれていた状況からのショックで呆然とし、それでも直ぐに一護はその目に殺意を漲らせた。
恋次、殺す・・・!!
夢は夢、である。
一護は恋次とあのような桃色雰囲気な関係でもないし、今後そうなるとも思えない(思いたくもない)。
よって一護にとっては不快以外の何物でもない夢であり、理不尽なことにその怒りの矛先が恋次に向くのも仕方がなかった。
今朝は月曜日。
一護は学校よりもまずソウル・ソサエティへ赴き、赤髪の男を相手に斬月を振り翳したのだった。
ご愁傷様でした。