飼い
立て込んでいた事件も片付き、久しぶりに足を向けられた学校は其処彼処で一つの話題に意味もなく声を潜めていた。それはこの学校だけに言えたことじゃなく、昨夜から大々的にマスコミが騒ぐこととなったニュースに日本中が・・否、世界中が注目している。声高らかに話すことが禁忌のように声を潜め、「まさか」と否定する声が多い。だが「やっぱり・・」と諦めた、失望した、再認識した声が多いのも事実だった。

「ねぇ、あのニュース・・!」

「本当なのかよ!」

「何かの間違いでしょ?!」

朝のHRが始まる寸前に教室へ入ってきた彼に、彼の幼馴染を筆頭にクラスメイトの何人かが詰め寄った。友人と話し込んでいた他のクラスメイト達も、その目を彼に向ける。否定を求める縋りついたような目と、固定を求める好奇心に染まった目。誰もが彼の口から出る“真実”を望んでいた。だが当の本人は寝不足で機嫌が悪いのを隠しもせず、秀麗な顔を歪めて一言。

「何が?」

それに唖然としたのはクラスメイトだけで、彼の扱いに手馴れた幼馴染とその親友の少女二人は呆れた溜息を盛大に吐いた。

「やっぱりね・・・」

「そうじゃないかって思ってたけどぉ・・」

親しい少女たちに半眼で見られても、彼には何のことだか分からない。どうして今朝から町が騒がしいのかも、本来の仕事である“高校生”を楽しんでやれる空間が何故居心地悪く感じるのかも、分からない。

「ニュース、見てないのね?」

幼馴染の確認する声にコクリと頷けば、周囲からは野次が漏れた。

「オイまじかよー」

「それでも探偵かよお前ー」

野次の殆んどは仲のいいサッカー部連中からのからかうような言葉で、本人はムッとした表情を見せたあと拗ねたように言い訳を並べた。ここ一週間事件が立て込んでいたこと(「学校に来れないほどね」と幼馴染は眉を顰め)、昨日は寝る時間もないくらい忙しかったこと(「昨日は大好きな推理小説の発売日だったものねぇ」と幼馴染の親友は意地の悪い笑み)。言い訳を並べれば並べるほど、自分が少女二人にどれほど見透かされているのかが解って嫌だ。他のクラスメイトにすら「バカだ・・」「頭いいのにバカだよな〜」などと同情的な声をかけられる始末。昨日までの大人に囲まれて立派に仕事していた自分を思い返すと、今の状況がひどく情けない。“名探偵”とか“日本警察の救世主”とか、そんな肩書きを持ってしても親しい者には勝てないのだ。けど、年相応ってこういうやり取りだよな、うん。アレは所詮大人ぶって背伸びしてるに過ぎない自分だ。事件から離れればただの人。ただの男児高校生。

「で、ニュースって何の事だ?」

それでも事件は彼を待ってはくれない。彼も事件を追いかける。寝不足で痛む頭を抑えながらも少しだけ“高校生”から“探偵”へ意識をチェンジさせれば、それを感じ取った幼馴染がずっと握りっぱなしだった新聞を神妙な面持ちで差し出した。幼馴染の隣では彼女の親友が祈るように両手を胸の前で握り締め、涙目を隠そうともせず向けてくる。その目は“否定”側だった。探偵の手によって広げられた新聞はどこにでもある東都紙で、日付は今日。つまり朝刊だ。幼馴染らの様子に戸惑いながら見たその一面トップは、彼の眠気を吹っ飛ばすに十分な衝撃を持つ内容だった。



             『 怪盗KID 幼女誘拐ののち、殺害 』



昨日まで、不本意ながら人気者の“泥棒”だったそいつは、自分の知らぬ間に“殺人者”へと変わっていた。