ビー玉で出来た海
砂浜に腰を落ち着かせて黙って海を見ていたら、隣の男がボソリ何事かを呟いた。
押し寄せ引いての波音で聞き辛かったソレについつい「は?」と聞き返してしまい、見やった男のキレイな横顔がもう一度言うソレに再度同じ言葉が出てしまったが仕方ないと思う。
「は?」
二度目の言葉にイラっときたのか、男は海を眺めていた黒い目をようやく合わせて三度目になるソレを言った。
「・・・ビー玉みてぇだ、つった」
ビー玉。
この黒い男は今、確かに、ビー玉と言った。自分たちの目の前に広がる青い海を見ての奇妙な発言だ。
「・・・・・ビー玉?」
「・・・ビー玉」
訳が分からないと問うた言葉に対し、その一単語だけを返してまた黒い目を海へと向けた。つられるように自分もまた茶色の目を海へと向け、呟く。
「ビー玉・・」
この男には、この海がそう見えるのか・・・。
自分には広くて青くて穏やかで、暑くなったら飛び込んで遊ぶ所、としか思えない。だけど言われて見てみれば、青い水面と太陽に照らされてキラキラ光る様は、確かにビー玉独特の光と共通している。ビー玉の最大の特徴である丸みは見当たらないけれども。
「なぁ・・何処がビー玉?」
丸くないぞ。
最も頭に浮かんだ言葉を正直に言ってみれば、男は黒い目をチラリ向けて直ぐ視線の先にある海を指差した。
「一つじゃねぇ・・・たくさん」
たくさんのビー玉が一つ一つ光を受け輝き、浜に押し寄せ引いて。
「おめぇ・・・・・意外と面白いよな」
「・・・どあほう」
はた目には分からないが僅かにムッとした顔で男が聞き慣れた単語を吐くが、この時ばかりは初めて怒鳴り返さなかった。