この恋が実れば・・なんて、考えたこともない。





歌うは語り部なりて。





好きだという気持ちは本気の本気だ。だけど、相手に同じ気持ちを求める気は一切ない。この恋に気付いた時も、恋を謳歌している今も、自分だけの一方通行でいいと思っていた。相手からの気持ちは、そりゃ、欲しいよ?欲しいけど、どう考えたってアリエナイじゃない。

「フラれるって、決まってるんですか?」

いつかの新八の言葉がリフレイン。
―――決まってるよ。

俺は最低だ。
幸せだと笑う傍らで、この恋から逃げている。

高杉や桂には、敵だけどあえて「応援して」と頼んだ。最低なズルをした。自分の好きな人が傷付くのを、死ぬのを見たくないから、真剣に信念貫こうとしているアイツらの優しさにつけ込んだ。俺には甘いことを知っていて、彼に手を出されないよう防護壁を作った。本当に、俺って最悪。

恋から逃げているくせに、幸せでありたい、なんて・・・

「旦那ァ、土方さんのどこがいいんです?」

「どこもかしこも」

どこが好きなのかさえ分からない。本当にこれが「好き」という気持ちなのかさえ、分からない。
ただ、確かなのは・・彼を前にした自分だ。

「あ、」

「あ?・・んだ、てめえか」

不機嫌そうに眉間に皺寄せて、煙草を燻らせる、彼。市中見回り中らしい彼の後ろには沖田くんもいて、俺に向かってニコリと笑った。その笑みにホッとして、俺は無意識に恋から逃げる。

「どーも、旦那ァ」

「こんにちは、沖田くん。昨日の団子ありがとうね」

「いえ、いい話が聞けましたから。また今度ご馳走しまさァ」

いい話って・・?
そう思うも沖田くんの爽やかな笑顔に聞くことを押し留まれる。その間も心臓はバクバク煩いほどに脈打っていた。顔にはポーカーフェイスでどうにかいつものタルい坂田銀時の顔をくっ付けて、この笑顔が不自然じゃないかと不安にさえ思う。ちょっと動けば触れられる距離の彼から、ふわりと漂う煙草の匂い。彼は今どこを見ているんだろう。何を見ているんだろう。沖田くんに向けた顔を動かせない。ドキドキした心臓がそろそろ限界を告げていて、俺は一歩足を引いた。

「じゃあお二人さん、お仕事頑張って」

素早く身を翻してしまえば彼の姿はもう見えなくて、幾分かドキドキも収まる。そうしてガッカリする自分もいた。見たくない、のに、見たい。矛盾した気持ちはいつもどうにもならない。

「ええ、また今度」

「・・・おう」

背中にかけられた言葉の、辛うじて聞こえた彼の低い声がまた心臓のリズムを乱した。思わず止まりそうになる足を叱咤させて、意識的に前へ前へと進ませる。ああ、焦るな焦るな。いつも通りに、いつも通りに。後ろを向いたことで剥がれたポーカーフェイスが顔を真っ赤にさせているのを感じながら、どうにかヒラヒラと気だるく片手を振った。大丈夫、これで大丈夫、いつもの坂田銀時だ。

「あ、ちょ、神楽ちゃん駄目だって・・!」

「ああ!銀ちゃん顔真っ赤ヨ!!」

大江戸マートの袋を片手に慌てた新八が止めようと走ったが後の祭り。その少女の大声を向けられた銀髪は動きを止めた。彼のまだ数歩後ろにいるであろう黒服二人にもしっかり聞こえているであろう大きな声。番傘片手に大きな声をあげて、驚いたように俺を指差したうちの子が前方にいなければ、今日も「いつもの坂田銀時」で終わっていたのに。

「銀ちゃんどうし・・・あ、マヨラー」

神楽ちゃん、どうしてそこで土方の名前を出すの。