あ、こいつ、また・・!





歌うは語り部なりて。





何日かぶりに見たその顔はますます輝いていた。まるで恋でもしてるみたいに柔かい空気を纏っていて、その足取りもどこか軽く見える。今にもスキップしそうなそれを睨むように見た。

こっちを見ろ!
俺に気付け!
何浮かれてやがる!

赤い目を瞬かせて、そいつはようやく俺を視界に入れた。

「あ、」

「あ?・・んだ、てめえか」

今気付いたと言わんばかりに渋い顔を作り煙草を吸った。これがいつもの俺、だと思う。だけどこいつは一瞬だけらしくねえ表情を浮かべて、直ぐに消した。俺だからこそ気付いたくらいの一瞬で、今はもういつもの草臥れた笑みを浮かべている。

「どーも、旦那ァ」

「こんにちは、沖田くん。昨日の団子ありがとうね」

「いえ、いい話が聞けましたから。また今度ご馳走しまさァ」

あ?団子?いい話?
俺の知らない話にチリリと焦げたような痛みが走った。まだ一度も触れたことのない柔かそうな銀髪が風に揺れる。赤い目が楽しそうに細められる。穏やかで、幸せそうな、恋した表情。

なんだ、こいつ、苛々する。
誰だよ、誰に恋してんだよ。
そんなに好きなのかよ。
そんなに、幸せに・・・俺じゃダメなのか?

俺の方に目すら向けないで、話が終わったのか一歩足を引いたその腕を掴みたい衝動に駆られた。掴んで、乱暴に引っ張り寄せて、腕の中に抑え込んで、とにかく抱き締めたい。無意識に煙草のフィルターを強く噛んでいた。

「じゃあお二人さん、お仕事頑張って」

満足に顔も見せないで去って行こうとするその背。

「ええ、また今度」

「・・・おう」

どうにか搾り出すように声を出した。そいつは背を向けたままに手を振り歩いて行く。その背中を見たまま、言ってやりたい言葉を喉の奥に全て押し込んだ。

「好きだ」

と言ったら、お前は足を止めるか?こっちを振り向くか?俺を見るか?
思わず自嘲した。そんなこと、アリエナイ。

誰かの元へ去っていく背なんか見ていられなくて視線を外そうとした時に、その声が聞こえた。

「あ、ちょ、神楽ちゃん駄目だって・・!」

「ああ!銀ちゃん顔真っ赤ヨ!!」

買い物帰りらしい少年が明らかに「しまった!」という表情を浮かべた。指差し大声上げた少女を見て、動きを止めてしまった銀髪を見て、最後に俺を見て。傍らでは総悟が僅かに聞こえるほどの小さな声で「あちゃー・・」と呟き、俺を見た。

「銀ちゃんどうし・・・あ、マヨラー」

少女も同様に俺を見て、数度瞬きしてから「しまった!」と明らかに表情を崩した。三人とも、なぜ俺を見てそんな顔をするんだ。怪訝な顔をして問おうとした口は声を発する前に閉じた。未だ動きを止めた銀髪の、柔かそうな髪の隙間から覗く耳が赤く染まっている。少女が驚いて指摘するほどに、耳までもが染まるほどに、その顔は赤いらしい。

では、なぜ?

浮かんだ疑問がどうでもいいほどに、朱に染まった顔が見たくなった。いや、そうじゃない。今此処で、俺が見なきゃいけないように思えた。重たく感じる足を一歩踏み出してしまえば後は簡単で、意識せずとも見つめた先に身体は進む。俺が近付くことに子供二人は何か言いたそうに目を向けたが、結局何も言わずに目を逸らした。お咎めはなし、ということは、好きにしていいらしい。

「おい、万事屋」

「っ!」

至近距離で声をかければ今気付いたと言わんばかりに過剰な反応を見せて、逃げるように足を踏み出した。さっきは掴めなかったその腕をようやく掴み、引っ張る。

「あ、ちょ・・!」

振り向かせたその顔は本当に赤く染まっていて、俺は思わず目を瞬かせた。同時に気付く。こいつのこんなに余裕のない顔を、初めて見た。赤い顔が俺の顔と、掴まれた腕を見る。俯くそれがまた赤くなったのが見えて、余裕もクソもなくなった。

「好きだ」

この言葉だけを、何度胸の内で叫んだだろうか。だが今ははっきりと目の前の男に言葉を向けた。

「好きだ、万事屋」

ビクンと強く反応した顔が勢い良く上がり、俺の目を見た。赤い目が大きく丸まって、口が戦慄いているのを黙って見つめる。そしてやっと俺の言葉を理解したのか再度これ以上無理だというほどに顔を、耳を赤に染めた。

「ぅ、嘘、だあ・・」

泣き出す寸前のような表情で笑ったそのキレイな顔を、俺はこの先ずっと忘れないと思った。