まだ愛じゃない
ああ、
と、深く溜息を吐き出す。周囲にはただ煙草の煙を吐き出しただけに過ぎないこの動作。もう何度目か、なんて、数えるのも馬鹿らしい。自嘲するような笑みが、また。
ああ、
切ない。
冬の澄み切った空を見上げて、らしくもなく黄昏る。灰がかった煙が溶けるように天へと消えていく。何度も吐き出したそれ。何度も見たそれ。煙と共に吐き出したつもりの胸に溜まった感情は、どうしてだろうか消えちゃくれない。燻った火がじりじり、じりじり、痛い。
ああ、
顔が見たい、と思う。憎たらしいあの顔を見て、少し喧嘩腰の話をして、いつも通りに「じゃあな」の一言で別れたい。それだけでいい。まだそれだけで十分だ。手を伸ばしても届かないこの距離で望めることなどそれが精一杯。ただ万が一、手が触れてしまったら?
ああ、
切ない。恋しい。そう、恋しい。浮くようなこの感覚。陽だまりのよう。それがもし、もし、触れてしまったら・・・
「大きな溜息だねぇ、何か悩み事?」
いつも通り、突然現れたやんわりと笑う顔。霧散していた思考が急激にクリアになって、ああちくしょう、おかげで何考えてたか忘れちまったよ!知れず顔はニヤリと笑んでいた。
「何でもねーよ」
余計なこと考えるな。まだ恋でいいさ。