目 隠 し 鬼 一つ彼のもの目を蔽われ
真選組にその話が届いたのは、被害者が三十にもなろうかという頃。その数は多すぎず少な
すぎず、だけども症状の異例さと被害者の一人が幕府のお偉いさんだということで突然火が
点いたような騒ぎになった。監察の山崎が大まかにまとめた報告を聞いた時、怪訝な顔をし
たのは何も土方だけでない。近藤も沖田も、その場にいた全員が「まさか」と思った。
「医者も祈祷師もダメだったみたいです。被害者全員が・・」
「突然盲目になりました」
怪訝ながらも神妙な顔を報告書から上げて、山崎は局長の顔を見た。眉を寄せた難しい顔
は、ちらりと隣の副長を見る。
「トシ、どう思う」
「どうもこうも・・幕府のもんが被害者じゃあな・・・」
上から命じられれば、自分達はそれを調べて解決しなければならない。例えそれが・・・都市
伝説と呼ばれる存在自体があやふやなモノでも、だ。
初めの被害者は分からない。気がついた時には噂が町を覆い、突然目の見えなくなった被
害者が出始め、遂には幕府の人間がその餌食になった。
夕暮れ
一人
蹲った少女
少女の笑顔
盲目
被害者の言うキーワードは全て同じで、怖がった子供が言い出したのか知らないが・・・『目
隠し鬼』と呼ばれるようになっていた。夕方には一人で町を歩く者がいなくなり、かといってそ
れが本当に夕方だけなのかも分からない。怯えた人々は家を出るのを極端に減らした。被害
者は皆、二十を過ぎた男女であり、全てが自分の娘や姪っ子、近所の女の子だと思って声を
かけている。
「目隠し鬼が出るぞー!」
子供たちは夕方になると揃って騒ぎ立て、娘を持つ親は娘を家から出さないようにした。それ
でも被害者は出る。酒屋の親父が、布屋の女将さんが、酔っ払った天人が、幕府の重鎮が。
人を問わず場所を問わず、被害は広まった。
「まるでホラーじゃないですかィ、土方さん」
「なななな何で俺の顔を見るんだ総悟ぉ」
傍目に分かるほど小刻みに震える土方を見て、沖田は人の悪い笑みを浮かべる。
「アンタ、気をつけなきゃァ・・・目隠し鬼のターゲットに当て嵌まって「それ以上言うんじゃねェ
エエエ!」
それは土方だけに言えたことじゃなく、真選組内で二十を過ぎていない沖田以外全員に当て
嵌まっていた。天下の真選組とはいえ、いつ誰が被害者になるか分からない。近藤は一つ頷
いて、強張った声を張り上げた。
「皆、十分に気をつけろよ!」
重い大将の言葉に、全員が頷いた。
真選組が騒ぎ出したその頃、かぶき町にある『万事屋銀ちゃん』へ数人の小さな客が来てい
た。六才から十二、三才ほどの男の子や女の子。子供たちはそれぞれに宝物や僅かな金銭
を持ち寄って、大きな目に涙を溜めて頭を下げた。
「目隠し鬼から、目を取り返してください・・!」
「おっとうの目を取り返して!」
「お願いしますッ!かかあを助けてください!」
親の目を奪われたかぶき町の子供たちの叫びに、対応していた新八は息を呑んだ。彼自身
、近頃急速に江戸中で噂になり始めた『目隠し鬼』のおおまかな話は知っていた。黄昏時の
少女と、原因不明の盲目。だが、まさか自分のこんなにも近くで、こんなにも多くの被害者が
いるとは夢にも思っていなかった。そして被害者の子供たちが、ココへ依頼に来るということ
も。
「ぎ、銀さん・・・」
不安を映したその目で新八は雇い主を仰ぎ見た。さっきまではダルそうにソファへ腰掛けて
板チョコを齧っていた銀時も、子供たちの話を聞いた今は驚きを隠せない顔で新八を見返す。
「まじ、だったのか・・」
銀時は縋るようにこちらを見る子供たちに視線を向けて、思わずといった風に新八にしか聞こ
えないほどの小さな声で呟いた。