目 隠 し 鬼 二つ切なるもの奪われ
子供たちの依頼はもちろん引き受けた。報酬はビー玉一つ、これで十分だ。そろそろ真選組
も動き出す頃だろうからちょうどいい。あっちからも情報を貰って早々に解決してしまおう・・・
こんな事件は。
「銀ちゃん、苦しいヨ・・・」
万事屋三人でかぶき町をパトロール兼聞き込み中、突然道の脇に神楽がしゃがみ込んだ。
覇気のない声と、苦しげに腹を抱える様。咄嗟に「神楽!」と声をかけた。
「・・・・・銀ちゃん、そんなじゃ目隠し鬼にヤられるネ」
けろっとした顔で溜息を吐いてみせた少女にコメカミが引き攣ったのは、何も騙された本人で
ある銀時だけではない。その場に一緒にいて銀時と一緒に具合の悪がった少女を心配した
新八もまた、無言で握り拳を作っていた。
「銀ちゃん心配ネ。簡単に声かけちゃいけないアル。ナンパ野郎め」
「俺ぁガキには興味ないから大丈夫だ。人妻にしか声かけねえよ」
「鬼に取られろその汚い目を」
辛辣に吐き捨てながらもその目は心配を映していて、銀時の心の中を自然とあったかくさせ
た。寒さが身に凍みる夕暮れ時、夜には賑わいを見せるかぶき町も今は淋しい。だけど銀時
の隣には自分を思ってくれる者が二人もいて、二人ともが手を繋いでくれる。互いの熱を僅か
に分け合うそれは何よりも温かい。
「よし。今日は寒いからおーわりっ」
「カエルが鳴いたらかーえろっ」
「え、ちょっとォ?!近所を散歩しただけじゃないですか!」
自宅へ足を向ける銀時に習い神楽もまた歩き出し、一歩遅れながらも繋がった手を離さない
ように新八も続いた。明日また昼から情報集めて、何なら真選組にでも行って遊び半分探っ
てくるのもいい。何も焦ることはないじゃないか。殺されるわけじゃない、ただ目を取られるだ
けだ。不謹慎にもそう思ってしまうのが現状で、銀時の心中はいつも通りのスローペースだっ
た。
そして、油断している心に鬼が入る。
神楽は見入っていたテレビから唐突に顔を上げた。きょろきょろと決して広くはない部屋を見
回して、眉を顰める。洗濯物を抱えてそこに通りかかった新八は怪訝そうに神楽の様子を見
るも直ぐに「あ!」と気が付いて、同じように部屋を見回した。
「銀ちゃん、いないネ」
「お風呂、かな・・?」
そう呟いて風呂場へと様子を見に行った新八とは別に、神楽は銀時の寝室へ続く襖を開けた
。薄暗がりのそこには誰もいなくて、襖は開けたままに台所へと跳んでいく。
「神楽ちゃん、いた?」
風呂場のついでにトイレも見て戻ってきた新八は、開けられたままにされた銀時の寝室の襖
と、誰もいないテレビが点けっぱなしの部屋を落ち着かない気持ちで見た。瞬間、言い知れぬ
違和感を感じて・・・台所から出てきた神楽を見て少しだけ安堵する。だけど残るこの違和感。
「銀ちゃん、いない・・」
「ぇ・・?」
「いないヨ。どこにも、いない・・・」
見開いた目が乾くのを感じて、意識して瞬きをした。見詰め合う先の神楽の顔が、心なしか青
い。小さな体が微かに震えてるのが見えて、自分もその時、震えていることに気付いた。瞬間
、示し合わせたように同時に二人で走り出す。上着も羽織らず闇を迎える目前の外へ飛び出
して、カンカン高い音を響かせながら階段を駆け下りた。寒さなんて全く気にならない。普段
は神経質な戸締りすら本当にどうでも良くて、不安で不安で心配で、吐き出す息の白さがな
んだか邪魔に思えるくらいで。
「っ、銀、ちゃん!」
少し走った先の道端で座り込んでいた銀髪頭を見つけて、ようやくまともに呼吸が出来た気
がした。ふっと肩から力が抜ける。駆け寄った神楽が安心しきった顔でその背中に飛びつい
て、銀時は普段と同じように「わわっ!神楽、コラ!」なんて怒っちゃいない声を上げた。それ
に新八は苦笑して、ゆっくり近付きながら帰りを促す。
「帰りましょう、冷えますよ」
「銀ちゃーん何してたヨー」
「ああ、わりぃ」
どっこいしょ。背中にぶら下がった神楽をそのままに、ひどく年寄り臭い仕草で立ち上がった
銀時は、振り向きながら後ろ頭を申し訳なさそうに掻いていた。
「すまん、ヤられた」
何を言っているのか、瞬時には判断出来なかった。だがそう謝った銀時の目を見た途端に、
彼が謝ったことの全てを理解する。死んだ魚の目だと評されてはいても奥に潜む強さが眩し
かったその目は、光をなくし濁っていた。焦点は新八を捉えずにどこか遠くを見ていて、それ
は“見えない”ことを実に明確に示す。言葉なく目を見開いた新八の様子に気付き、神楽はこ
こで初めて背後から無理矢理に銀時の目を見た。自分を映さない、その澱んだ目。
「銀ちゃ・・目、が・・・」
呆然と口を出た神楽の声に、銀時は苦笑してみせるしかなかった。