目 隠 し 鬼  三つ探せど出てこない





「お前ら警察は何してるヨ!!」

大きな青い目に涙を溜めて、少女は単身乗り込んできた。獲物の番傘を振り回して大暴れ
する神楽を止められる者など、いくら真選組といえども数人しかいない。その数人に含まれ
る沖田が市中見回りから屯所へと呼び戻されて刀を抜くまで、誰にも止められない夜兎の少
女は怒りで屯所を半壊させていた。

「・・・で、一体全体どうしたんでィ。こんなに暴れてよォ」

「神楽ちゃん・・」

「・・・チッ」

お互いが全力の十分間の死闘は、隊士が慌てて呼びに行っていた新八がその場に来たこ
とで終着した。沖田も神楽も服はボロボロ、だがさすがにお互いで戦い慣れているだけあって
大きな怪我はない。不貞腐れた様子の神楽は舌打ちを一つしただけで何も言わず、番傘で
顔を隠すようにして地べたに座り込んだ。新八もまた溜息吐くだけで何も言わず、神楽へ顔
を合わせるようにしゃがみ込む。それに続くように沖田も土の上へどっかりと座り込み、様子
のオカシイ知人二人を見て内心どうしたもんかと唸っていた。なんだろうか、なにか、足りない
気がする。

「銀さん、心配してるよ?」

新八がぽそりと呟いたそれに反応したのは神楽だけじゃなく、ポーカーフェイスの下で沖田も
また大きく反応していた。なにかこの二人に足りないと思ったら、彼が、ここにいないのだ。

「新八、銀ちゃん一人で置いてきたアルか?銀ちゃん一人じゃ危ないヨ!」

沈んだように静まっていたはずが、再度興奮したように目を吊り上げて新八の胸倉を掴む神
楽を沖田は咄嗟に止めた。

「おいチャイナ!」

「っ」

二人の間に入って強く止めた沖田を見て神楽は一瞬だけ動きを止めて、次には泣き出す手
前のように顔を歪ませた。目の前に立ち塞がる埃に汚れた黒い隊服の胸倉を掴み、琥珀色
の目を涙に濡れた青い目で睨みつける。

「お前ら・・捕まえるなり殺すなりとっととするネ!」

「神楽ちゃん!」

神楽の叫びに新八は悲痛な声を上げ、助けを請うように沖田を仰いだ。ごくり、意を決したよ
うに生唾を飲み込んで、少年は頭を下げた。

「お願いします!僕らだけじゃもうどうにもならないんですッ!」

はたはた。少年が俯いた先の地面に水が数滴落ちて染み込むのを、沖田を含めそこで場を
見守っていた真選組隊士はしっかりと見ていた。





屯所に怒声が上がる。壁が崩壊して荒れきった中庭・・と呼んでいた今や更地が望める部屋
で、近藤は土方を宥めるのにとにかく必死だった。側にいる沖田はそ知らぬ顔で荒地をぼー
っと眺めたまま動く様子はない。彼が何故ボロボロの姿なのかも、真選組の屯所がテロにあ
ったような打撃を受けているのかも、崩れかけた門前を唖然と眺めている際に隊士に教えら
れた。その後に騒ぎを聞いた土方が飛ぶようにやってきて、この有様だ。

「大の大人が揃って何してんだコラァアア!」

「いや、トシ!チャイナさん強いから無理だって!」

「死んでも止めろォオオ!」

「落ち着けトシィィィ!」

真剣を隊士に振り回す土方を羽交い絞めにしながら止めて、ようやく動いた気配のある沖田
を希望の目で見る。いつも通りにどうにかしてくれるかと思いや、沖田はひどく冷静な、そして
強い声で言った。

「目隠し鬼、新しい被害者出ましたぜィ」

さすがに副長を務める土方はその言葉に動きを止めて、静かに沖田を見た。彼の思いもよら
なかった言葉には近藤も動きを止めて、瞬時に局長の顔をする。目で続きを促せば、沖田は
一度だけ彼らしくなく目線を下げてから、その名を出した。

「坂田、銀時」

「・・・は?」

「万事屋の旦那、三日前、ヤられたそうです。それで、チャイナのやつが・・」

傍目には分からないくらいに沖田は顔を歪ませて、ついさっき目の当たりにした神楽と新八
の涙を思い出した。無意識の内に強く拳が握られる。

「・・そうか、それで・・・」

知り合いが被害にあった。しかもよく知った、まるで友人のような仲間のようなヤツが。それに
近藤は激しい憤りを覚えた。胸の内から湧き上がる、悔しい思い。怒り。後悔。見知った子供
がここまで分別なく荒れるまでに怒り、悲しんでいる。俺は何をしている・・!

「ガキ二人、今朝まで手当たりしだいに“鬼”探して回ってたみたいですが・・駄目だった、み
てェで」

「・・・・・」

土方は、瞳孔を開いたまま動くことはない。刀は持ったままぶらりと下げて、煙草も銜えず。
沖田が今言った話と、ここで起きた子供の暴動を頭の中でようやく繋げて、刀を鞘に戻した。
ゆっくり足を動かしながら煙草を取り出し銜えて、愛用のマヨネーズ型ライターで火を点ける
。肺まで吸い込んだ煙も足取りに合わせてゆっくりと吐き出して、足はいつのまにか走ってい
た。

「行ったな・・・」

「行きましたねェ・・・」

遠く小さくなっていくその背を見送って、目を合わせた二人もまた足を向けた。泣いていた子
供と、新たな被害者の元へ。