目 隠 し 鬼  四つ記憶沁み込むその涙





水の底からスッと浮いて出たように、ふと気付いた。今日買っておいたジャンプ、確か下のバ
バアんとこに置きっぱなしだ。こんなもん買うぐらいなら家賃払えと怒鳴られた原因。

「・・・行くか」

面倒だが仕方ない。気付いたら妙に続きが読みたくなってきた。ちょっと下まで、神楽はテレ
ビの虫だし新八は洗濯がどうとか言って奥に引っ込んだまま、サッと行ってサッと帰って来ち
まえばいいか。

「う。寒っ」

外へ出た途端に冷たい風が体を覆った。ぶるり大きく体を震わせて、少しでも暖を逃がすま
いと自身を抱き締める。ああ、クソ!ババアんとこの酒でもパクってくかなー。
カンカン
階段を下る高い音が寒い夜に響く。
カンカン
こんな冬の始まりの日は、やっぱり熱燗か。そういえば最近屋台へも行っていない。
カンカン
炬燵ももう出すかー。いや、でも電気代がなー・・。
リンリー・・ン

「ん?」

階段を下りきったお登勢の店前で足を止めた。小さく響いてきた高い音。
リー・・ン
どこかで聞いたような、鈴の音。
リー・・ン
誘われるように足が動いた。なんだ、この音。どこで聞いた?

「・・・っ、は・・」

寒さではない、何かに体が震えだす。頭の奥では拒絶と
――恐怖。

「ふ、っう・・・っ」

たった数歩で息が上がる。煩い心臓の音。頭が痛い。目の奥が痺れてくる。甲高い耳鳴り。
リー・・ン
鈴の音だけははっきりと聞こえてくる。

『おうちに帰りたい』

水の底からスッと浮いて出たように、蘇った昔の記憶。

『おうちに帰りたい』

銀の髪、赤い瞳、赤い着物、蝶の髪飾り。少女が泣いている。

『帰りたい・・』

少女が俯いて、リンと鳴る髪飾りについた鈴の音。

『帰ろう・・・いっしょに帰ろうよ』

暗い闇の道、笑いながらも泣いているあの子が、俺を見た。小さな白い手を差し出して、俺は
それを握り返す。俺の手も小さくて白い。まだ小さく幼い体には合わない赤い刀を片腕に抱え
て。

『帰ろう、帰ろう』

帰る家なんてないと知っていたけれど、俺は引っ張られるままに少女と進んだ。

『帰らなきゃ、逃げなくちゃ』

リンリン響く鈴の音に急かされるように、闇に呑まれないように。

『逃げて逃げてにげて・・
――     』

「っ、銀、ちゃん!」

バチンと風船が割れたような感覚で我に返った。背中に圧し掛かる慣れた重みと温かさ。

「わわっ!神楽、コラ!」

いつも通りに騒ぐ頭の片隅で、いつ座り込んだんだっけ?なんでこんなとこにいるんだっけ?
何だ?何だ?疑問が渦巻く。ぱちぱち、数度の瞬きでも明るくならない視界にまた疑問が湧
いて、納得。

「すまん、ヤられた」

あの日、あの子と逃げた日のように深い闇が訪れた。
――最後、あの子は何と言って、俺の手を離したんだっけ・・?