せんせえ、すきです。
己がクラスを受け持つ生徒から、所謂“告白”というものをされた。
ミンミンミンミン蝉が自己主張の激しい季節。学校はせっかく夏休みとなったのに、何故か教師だからと雑用の処理に職員室へ向かう午後二時過ぎ。ぺったんぺったんやる気なく便所サンダルで暑苦しい廊下を歩きながら、校庭をこれまた暑苦しく走る野球部連中を死んだ目で眺めた。暑い。
そこで背後から声をかけられた。声の主は良く知る己の生徒で、やっぱり暑苦しい部活に励んでいる生徒だ。俺を追いかけて来たと言うその姿は革クサイ防具そのままで、重かっただろうにこの暑い中部活をしていた最中だというのに走ってきた汗で顔が濡れている。
「部活はどしたの。副部長がいなくてダイジョーブ?」
こいつの部活はこいつで何とかなっているようなものだから、つい純粋に心配になって口を出た言葉。だが俺の言葉に意外そうに目を見開いてから静かに首を肯定の意で振り、そいつは嬉しそうに口元だけで笑った。その笑顔の方が、俺には意外過ぎた。
「先生、好きです」
異性にモテモテのそいつから出たその“愛の告白”というやつは、蝉が喧しいこの空間でもしっかりと俺の耳に届いた。ぽろり。半開きになる口に銜えていたペロペロキャンディー(煙草)が落ちる。冗談だろー、なんて笑い飛ばせるような雰囲気じゃない。真っ直ぐ射抜くような、逃がさないと訴える漆黒の目に囚われた。
ああ、まずい。まずいぞコレは・・・。
生徒に告られるだなんて、俺みたいに(自称)カッコイイ先生だったらアリだろう。だけども今回の場合はナシじゃないのかな。だって、だって俺たちは
「男、だろ・・・?」
恐る恐る搾り出した声に、そいつの形のいい片眉が器用に上げられた。
ぁ、ヤバ・・怒った?言ってはいけないことだった?何にだってデリケートな思春期の考えることなんて、十数年前に青春卒業した中年男には到底分からない。
「・・・関係ねぇよ」
不貞腐れた声にホッとするけど、関係ないなんてことはないと思うぞ。
少なくとも、先生は。
「・・・先生のこと、嫌いじゃないの?」
「好きだって、言ってるだろ」
「ぁあ、うん・・」
また“好き”だなんて言われちゃった。
他人に好意を持たれて嬉しくないはずはない。ましてや自分の生徒。嬉しい。嬉しいけど、その好意は“先生”と“生徒”にあってはならない好意だろう?それに加えて、“男”と“男”だ。
「ねぇ、土方くん・・」
ダメだよ。きっと気の迷いだよ。この暑さに頭がヤラれちゃったんだよ。色んな意味を込めて曖昧に笑えば、“土方くん”はキッと視線を鋭くし怒鳴った。
「逃げんなッ・・・!」
授業中にツッコむ聞き慣れた声なんかじゃなく、部活中に後輩へ激を飛ばす勇ましい声なんかじゃなく、腹の底から出したように響くその男の声に、俺の体が竦んでしまったのは確かだ。
大事な仲間・部活を放ってまで、重く暑い防具を着たままで、俺だけを追って走って来たコイツの真剣さも確かだ。
ダメだ。逃げられそうにもない・・。
せんせえ、すきです。
ああ、
なんて可愛い、
愛のコクハクだろう。