せんせえ、すきです。





早朝6時。朝の涼しさが体を動かすのに気持ちいい。それでも後1時間も経てば、夏の茹だる暑さに死ぬ思いをするだろうと少し憂鬱に思った。・・まあ、それさえ乗り切ってしまえばあの人に会えるのだと分かっているからこそ、今朝の練習は少しだけ易しい(山崎に言わせればザラキーマがザラキに変わった程度)。そんな竹刀片手に軽く汗を流す朝練の最中、まるで何でもお見通し、という悪い笑みを浮かべて総悟は俺の頭を竹刀で突いた。

「腑抜けた面しやがってコノヤロー」

誰のおかげだと思ってるんでィ。
そう言われてしまえば、文句は口を出ない。
煮詰まりに煮詰まらせ、夏休み中に衝動のまま告白をした。相手は自分の担任で、しかも、男。それはどうにもならなかった。銀の髪を見た瞬間に胸の奥にある何か大事な、「心」と呼ばれるような不確かなモノを奪われ、それからずっと、ずっと、長いこと・・。

「長かったですねェ」

「・・・・・」

コイツは人の心が読めるのか。サトリか。それとも俺がサトラレなのか・・?
所謂一目惚れというヤツをして、長いこと悩んで反発してみて、それでも好きで・・・誰かに相談など出来るはずもなく、一人重たい感情を持て余していた。重くも甘く、笑顔を見れば愛しく感じて、叶わない気持ちだけが澱んで俺の中に溜まっていく。溜めて溜めて、何処かに発散出来れば良かったんだろうが、俺にはそんな器用な事を考える思考すらなかった。そして。それは夏のある日、偶然見かけた銀髪が眩しい太陽の光に輝くのを見て、遂に爆発した。

せんせえ、すきです。

我武者羅だった。爆発した衝動のままに言ったこととはいえ、今更巻戻しなんて出来やしない。それなら、それならいっそ・・・突っ走ってやる。平たく言うと、俺は先生の赤い瞳が驚きに瞬くそれを見て、開き直ったのだ。

俺も、好きだよ。

街灯の明かりだけが頼りの薄暗闇で、眼鏡のガラス越しに見た先生の赤い瞳。キレイな目に、またこの人を好きになったことを自覚した。
そうして俺の、叶いそうもなかった恋が叶ったのが昨夜。初めて抱き締めたその身体の柔かさや体温をまだ憶えていて、それでもあれが夢だったらどうしようかと、中坊みたいに心臓をドキドキさせながらなんとか帰宅した。フラフラと自室へ踏み出したその時、抱えていた鞄が震え、中に入れっぱなしの携帯がメールを受信する。

『恋愛成就おめでとうございます。幸せなままに死んでくれりゃあ俺も幸せなんですが』

「・・・・・は?!」

なんでコイツがんな事知ってんだ?!
お節介なクラスメイト三人による保健室での“後押し”を、俺はそこで知った。

「ああ土方さんお幸せそうで何よりです〜」

「酢昆布貢いで土下座でもして欲しいくらいネ」

「土下座じゃ足りないくらいでさァ。手始めに腹ァ掻っ捌いてくだせェ」

手始めに腹掻っ捌いたら間違いなく死ぬだろ。
そのツッコミ一言さえ言えず、俺はこの先の自分の未来を憂いだ。





せんせえ、すきです。
おれも、すきだよ。






幸せの代償は、とてつもなくデカイ。