募る想いのその先は
鬼に憑かれたようにのめり込んだ仕事先、久々の大捕り物。剣先を突きつけた男に目が眩んだ。心臓が嫌な音をたてた。
チガウ。
そんなはずはない。
だが、しかし・・・
「似ていた・・」
静寂に包まれた自室で、書類を前に思わず呟いていた。
似ていた。
とても。
白が。
赤が。
あの女に、似ていた。
それから、今まで目に付かなかった事が不思議なくらいに度々見かけ、目が合えば挨拶代わりに口喧嘩。口だけで終わらなきゃ手が出ることも多い。あの野郎・・・と言いつつも、楽しんでいる自分に気付いていた。愛した女を忘れ、その上に新しく、別の白を塗り替えている事にも気付いていた。似ていたから、代わりを求めたのかもしれない。否、俺はそんなに弱く愚かな人間じゃないはずだ。あの男に惚れたんだ。あの男の本質に。そう強く想う日々のなかで、ふとした瞬間に女の影を見てしまうのは・・まだ、忘れていないというはっきりとした証。
「ねぇ、土方くん、知ってた?」
「・・何を」
見廻り中に会い、引き摺られるようにして入った甘味屋。最近多いこのパターンにもだいぶ慣れた。俺は茶を、こいつは団子。それぞれ片手にどうでもいい話。そんな時、一瞬だけ途切れた会話を繋げるように男は串に残った一つの団子を見ながら言った。
「俺たち、前にも会ったことあるんだよ」
「・・・あ?」
何の話をしているのか分からなかった。「前にも会った」って、どういうことだ?また妙な事を言い出しやがって・・。問題の本人は暢気に最後の団子を頬張っている。その表情からは相変わらず、悔しいが何も読み取れない。突拍子もないこいつのことだ、また特に意味はないのかもしれない。こいつの思考を理解しよう、だなんて、考えるだけ無駄か。
「ダメだよ。ちゃんと考えて」
「っ、な・・」
その真っ直ぐな赤い目に、頭の中を見透かされた気分だった。言葉を告げられないでいる俺になんて構わず、男は最後に悪戯な笑みだけ残してさっさと店を出て行った。席には空っぽの湯呑みと、串が置かれた平皿。珍しくそこに伝票はない。なんだ。なんだあいつ。何考えてるのかやっぱり分からない。だが、「ちゃんと考えて」とまるで念をおされたように感じに違和感を覚える。何故だか焦燥感が募っていた。考えなければいけない。そして答えを出さなければいけない。
『俺たち、前にも会ったことあるんだよ』
女の影が過ぎった。
「まさか、な・・」
言葉に出して否定して、頭を抱えた。答えなんてきっと、剣先を突きつけたあの瞬間にもう出ていたんだ。知らないフリを続けてきただけで。それも限界にきていた。
「くそ・・!どういうつもりだよ・・・」
忘れてやろうとしたのに。知らないでいてやろうとしたのに。それを踏み躙るように必死で埋めた激情を穿り返された。身の内で、消えかかっていた火がまた炎に成長する。あいつがどういう考えなのかは知らないが、一方的に油を撒いていきやがって・・・もう止まらない。止められない。
覚悟しやがれ。