その日は珍しく居心地の良い目覚めだった。抱き締めた人肌は温かく、顔に当たるそいつの柔らかい髪と甘い香りがくすぐったい。
本当に久々だ。このまま時間を気にせずに寝ていたいなどと馬鹿なことを考えるのも、目を閉じたまままこの安心するひと時をまどろむのも。
「っふー・・・」
心地よさに吐息を吐き出すと、腕の中のそいつはピクリと震えた。
「ん・・・」
その声にギュッと強く抱き締めてやると、そいつは甘えるように腕へ擦り寄ってくる。思わず胸の内から、何とも言えない愛おしさが湧き上がってきて、顔は自然と笑みを作った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん・・・・・ん、んん?」
オイ待て。ちょっと待て。そいつって・・・・・誰だ?
ハッと勢い良く目覚め布団を跳ね飛ばすと、そこには見慣れた銀髪が眠っていた。
嘘つきは恋のはじまり...? 〜嘘〜
「・・・・・っ?!」
開いた口が塞がらないとはよく言ったもので、唖然とした土方の口は開いたまま閉じようとしない。そして布団を跳ね飛ばしたことでよりいっそう鮮明になったこの状況。
未だ眠る銀髪――銀時――も、土方自身も、夜着はおろか下着すら付けていなかった。
つまりは二人とも、素っ裸で眠っていたのだ。たった一つの布団で、あろうことか土方が銀時を抱き締めて。
「う、うう、うううう嘘だ・・・!」
端正な顔を青褪めさせ、土方は頭を抱えた。
何だこの状況は!?思い出せ!思い出すんだ俺!今が働き時だ俺の優秀な脳細胞っ!
「・・・・・っ、ぁぁああああ」
―――思い出せない・・・!!
「・・・何してんの」
荒れ狂った土方の心境にはそぐわない、ひどくのんびりとした声はもちろん銀時。彼は寝転んだ体制のままぐぐっと伸びをし、大きな欠伸と一緒に寝癖の酷い銀髪を掻いた。
「・・・・・」
「いや、何?そんな怖い顔してちゃ分からないって」
銀時の落ち着きようはそりゃ立派だ。いや。立派を通り越してムカついた。何でコイツはのんびりと欠伸なんかしてるのに、俺だけがこんなに焦ってるんだ?ムカつくったらない。
「何があった」
「は・・・?」
土方は率直に聞いた。俺とコイツとの間には何にもなかったんだという、多少の期待も込めて。
「何って・・・・覚えてないの?」
「・・・覚えてないから聞いてる」
土方が苦々しく言ってやると、銀時はぼけっとした思考の読めない顔を珍しく歪ませた。そのまま視線と一緒に顔をもサッと逸らす。
「お、オイ・・・?」
何だソレ。何だその妙に意味あり気な態度は。
自然と身体を構えた土方だが、その姿が素っ裸なだけに全く格好がつかない。台無しだ。そんな彼の姿を見ることもなく、心なし身体を震わせた銀時は力なく呟いた。
「何も、覚えてないのか・・・」
「ぁ、ああ・・・」
土方が何で俺がこんなに気まずい気分を味わっているんだと思う暇もなく、銀時は言った。
「あんなに強く抱いてきたクセに。最っ低ェー」
「・・・・・は?」
ワンスモアプリーズ?
「あ、今日は午後から仕事だろ、確か。もう時間ヤバんじゃない?」
「っは・・・・おお?!」
銀時の言葉についと時計を見上げれば、針は11時と50分ジャスト。先程までとは違った意味で、顔が青褪めた。
それからはもう仕方ない。頭の中は仕事仕事仕事でテンパった状態。急いで散らばっていた下着や隊服を掻き集め(その時万事屋がのんびりながらも手伝った事実がムカツク)、乱れた格好のままその部屋を飛び出した。
「えっ?!土方さ「銀ちゃんの部屋で何してたヨこのニコ中!」
「げ・・・」
今まで気付かなかったし考えもしなかったが、飛び出した部屋は銀時の部屋で、そこは土方が片手で数えるほどしか訪れたことのない万事屋だった。そして目の前には二人の子供。自分は何も覚えていない。が、何かしらのことはしたようで、自覚なしに湧き上がってくるこの罪悪感。
子供にどう説明しろと・・・?!
「いや、あ「酔っ払って寝てたんだよ」
「銀さ「銀ちゃんおはよう!」
白い夜着を引っ掛けて土方の後ろから出てきた銀時。途端顔色を変えて銀時に抱きついた神楽は、実に土方がギョッとすることを言ってのけた。
「銀ちゃん昨日の夜煩かったアル!」
血の気が引いていく音を、土方はただ唖然と聞いた。
「あー・・・悪かった悪かった。多串君が酔っ払っちゃってさー」
真っ青な土方を銀時はチラリと一瞥し、神楽の頭を撫でながら気だるく口を開く。
「遅刻するよ?」
仕事のことを言われてはもう、土方はただ走るしかなかった。