朝から(といってももう昼過ぎだが・・・)銀時はとてもすっきりとした気持ちだった。
「銀ちゃん、今日ご機嫌アルね!」
そう神楽に、まるで自分のことのように嬉しそうに言われたほど、気分が良かった。
嘘つきは恋のはじまり...? 〜笑〜
自分自身この顔は如何なものだろうと思うが、鏡に写った自分の緩みきった表情は変わらない。幸せそうな顔だなと、ふと他人事のように考えて、同時に己のことなのだと痛感。
「え、何?どうしちゃったの俺・・・・気持ち悪っ」
両手で咄嗟に両頬を押し潰す。そうすればホラ、ちょっとは見慣れたブサイク顔。
「って誰がブサイクだァァァ!」
「銀さん?!」
偶然通りかかった新八が驚きツッコむ。そのツッコミすら無視して、頬をうりうり。顔の肉が指に押されて変な顔。ブサイク。でも幸せそうなこの目はなんだ。口は緩みっぱなしで直らない。妙な銀時に怪訝な視線を送りつつも、まあ変なのはいつもの事かと新八は家事をするため居間へと戻る。入れ違いにやって来た神楽は銀時の様子を見ても小首を傾げただけ。
「銀ちゃん、アレが落ちてたヨ」
「んぁあ?アレって何だよ、アレって」
チラリと神楽に視線を向けたあとも、鏡の自分をガン見して頬をうりうりぐりぐり。気にしない神楽はそのまま。目線は銀の後頭部。
「アレって言ったらアレしかないヨ、アレ」
「だからアレって何だよ。銀さんもう年だから、お子ちゃまのテレパシーじゃ分からないよ?」
「アレっていうのはアレ、アレ、アレ・・・・アレ?!」
言葉が素っ頓狂に高く上がった。頬に手を当てたまま、銀時はようやく視線を背後の少し下へ。そこには銀時と同じように頬を押さえた神楽が、相も変わらぬ無垢な表情。
「アレは、間違いなく・・・」
「間違いなく・・・?」
「デスノート・・・!!」
「・・・・・ぅん?」
今のは聞き間違いだろうか。いや、確かに“名前を書いただけで憎いアイツがあの世逝き!もれなく素敵に無敵な死神が憑いてきますっ★”な黒いノートの名を聞いたような聞かないような・・・。
「ほら、銀ちゃん!ここにダメガネの名前を書「ちょっと神楽ちゃァァァん!?」
どこから現れたのかどこから聞いていたのか、新八は勢いよく神楽の手元から“アレ”らしき黒い物体を奪い取った。更にそれを銀時が不意打ちでパッと取り上げれば、それは一般市民には縁遠い物。
「な、何だよ・・・警察手帳じゃん」
この世界って何でもアリだから、てっきりマジに死神のノートがあるのかと思った。ホッと胸を撫で下ろしている間に新八は神楽の餌食。
「てめーダメガネの分際で勝手な真似してんじゃねーよオラァァァ!」
「え、ちょっ、ギャァァァ!!」
手の平サイズの黒い手帳。表紙には金に輝く武装警察の印。持ち主のアテは十分についているが、一応と表紙を捲れば、そこにはやはり瞳孔の開いた漆黒の男。
「ん。やっぱりマヨラーのデスノートだったネ!」
「いやコレどう見ても警察手帳でしょうよ。デスノートってのはもっと大きくて薄いもんよ?」
「何教えてんですか銀さんっ!」
いつの間にか後ろから覗き込んでいた子供の野次。神楽は些かムッとした表情で、睨むようにじぃっと持ち主のぶっきらぼうな写真を見る。まるで穴でも開きそうだ。神楽の様子に気付きながらも、同じように写真を見ていた銀時の顔にはまた笑みが。無意識に生まれる“幸せ”な表情。
「・・・馬鹿だね、あいつも」
困ったような、でも確かに嬉しさを含んだその透き通った声。神楽と新八はキョトンとした顔を銀時に向けて、でも直ぐに目を逸らした。新八は銀時の、何とも表現し難い笑みに気恥ずかしさを感じて。神楽はただ、自分に向けられていないその顔。自分が作ったんじゃないその顔を、なんだか見ていられなくて。これは“嫉妬”だと、小さな頭で理解しながら。
「なぁ、神楽」
神楽の心情をまるで見計らったように、銀時はその手を小さな頭に乗せた。なでなで、優しい手付き。愛情いっぱいの、いつもと変わらない、自分への優しさ。温もり。俯いていた顔を上げれば、ホラ。酷く優しい銀時の表情。神楽は自分の心の中で、大輪の花がいっぱいに咲いたのを自覚した。だって、だって。これほど嬉しいことなんてない!
「何ヨ、銀ちゃん」
撫でる手はそのままに、銀時は甘く笑う。とても幸せなその笑み。
「うん、これをよぉ・・・」
そう言って差し出される黒い手帳を視界に入れて、神楽は心得たとばかりにニカッと笑う。
「届けるネ!」
「おう。頼めるか?」
「もちろんヨ!この神楽様に任せるアル!」
ドンと一つ胸を叩けば、銀時は一層甘い笑みを零す。優しさいっぱい。愛情いっぱい。大好きなその表情。忘れてた。“嫉妬”だなんて無駄なこと。大事な人は目の前にいるし、これからだってずっと、隣りにいてくれるのに。それに、一番大事なのは、守るべきなのは・・・
「銀ちゃん、大好きヨ」
突然の言葉に驚くその顔だって愛しい。
一番は、銀ちゃんが幸せでいること。
幸せに笑っていること。
それだけ。
それだけのためだったら何でもする。あのマヨラーっていうのがちょっと気に食わないけど。
「神楽、駄賃やるから酢昆布でも買って帰りな」
「マジでか!」
ひゃっほう☆とテンション高い少女を穏やかに見つめ、銀時は黒の手帳を紙袋へと放った。
「ぁあ、それから」
伝言頼む。清々しく輝く笑顔で、銀時は神楽に伝言を伝えたのだった。