紙袋は苛立ちに任せて握り潰して捨てた。中に入っていた物はきちんと胸のポケットにしまう。まさかここまで酷いとは思わなかった。大事な誇りの証でもある警察手帳を、他人の家に置き忘れたばかりかその事にさえ数時間も気付かず、しまいにはその家の子供に「おつかい」と称して届けられるとは。
信じられない。
どうしたんだ俺は!
嘘つきは恋のはじまり...? 〜恋〜
一人仕事の書類を前に、土方は肩を落とした。あの男が関るといつだって思い通りにいかない。花見の時だって邪魔しやがったし、たまの休日でさえ我慢大会もどきのようなことになった。
「ははっ、しょーもねェ・・・」
おつかいに来た子供は、その手に愛用の傘と半ば強制的に土方から脅し取った駄賃を握り屯所を後にした。その帰り際、子供が落とした例の爆弾発言に辟易していたいい年した鬼の副長の、情けなささえ感じる背中へ、子供の容赦はない。
「本気なら別に構わないヨ。銀ちゃんを宇宙一幸せにするネ」
いや、宇宙一はちょっと厳しいんじゃ・・なんて咄嗟にツッコミかかってから、自分がその言葉の真意を受け止めていることに気付いた。
オイ俺、あいつを幸せにすんの決定かコラ。
いやいや、そんなまさか。
だってあいつは。
だって俺もあいつも同じで。
だって・・・
「土方」
子供が呼んだ。弾かれたように視線を合わせれば、そこには土方がとうの昔に忘れた“白”があった。
哀しい。悔しい。淋しい。真剣。無垢。純粋。――願い
「半端な気持ちなら、近づかないで」
それは土方に、 離れないで とも聞こえる静かな声だった。
「近づかないで、か・・・キツイな」
子供のそれは無理な願いだった。今すぐにでもいい、目的なく町へ足を向けたとしても、俺はきっとあいつに会う。これだけは確かな自信がある。
だって、だって俺はあいつが・・・――
出たとき同様に慣れた仕草で戸を引けば、意中の男はソファに寝そべりジャンプを熟読している最中。紙の捲れる音といっしょに銀の頭も左右に揺れる。
「銀ちゃん、ただいま帰ったヨ!」
ポンッと軽快にその寝そべった体勢の身体へと跳び付く。蛙の潰れたような声が下から聞こえたが気にしない。
「・・っこら、神楽。銀さんの歳を考えなさい」
心なしか苦しそうな声。いや、神楽の全体重を乗せているのだから確実に苦しいだろう。読みかけのジャンプの上へ横を向き乗っているその顔は青褪めている。くるくるふわふわな銀の髪を片手でイジリながら、神楽は嬉しそうに笑んだ。
「銀ちゃん、きっと幸せになれるアル」
「んあ・・?」
だってあいつは、太刀筋やその黒い目のように、真っ直ぐで強い想いしかぶつけられないだろうから。あれだけ挑発したんだから、きっと大丈夫。
「何々?俺ってば幸せになれんの?」
はにかんだ笑みで見上げてくる銀時。
「うん、宇宙一の幸せ者になるネ!」
明日にでもやって来るだろう、あの男の情けない背を思って笑った。