「ねぇねぇ、銀ちゃん。サンタさん、私にも来てくれる?」
その無垢な瞳に、誰が「No」などと言えようか。
黒髪のサンタさん
年の瀬も迫る師走の後半。吐く息は真っ白く、空気は冷たく澄み切っている。何処へ行っても皆が何かに追われていて落ち着かない。ああ、忙しい忙しい。人々の口癖はいつも一緒。
「サンタって、いると思う?」
茶屋で偶然会った少年に問う。団子を齧るその手を止めて、ぱちぱち、瞬く目は何かを考えているようで。銀時は同じく団子を齧る手を止めて、少年の動作をじっと見つめ言葉を待った。
「・・・いねぇと、思いますがねぇ」
「・・・だよねー」
否定された言葉にがっかりはしなかった。返した言葉通り、自分もサンタなどいないと思っている。良い子には願った物をプレゼントしてくれる、だなんて、そんな酔狂な爺さんがいるわけない。ましてや一年間365日、フルで良い子ちゃんなんてのはもっと無理な話。そもそも良い子の基準って何だよ。
「神楽がさ、信じちゃっててさ・・・うちに来ないかなぁ、サンタさん」
「へぇ・・・サンタ、ねぇ」
意外だ、というような表情で彼の目が笑った。
「黒髪のサンタさん、来てくれないかなー」
「・・・・・」
ニヤリ、笑みの形を変えた彼をしっかりと確認して、
「酢昆布とお米でいいんだけどなー」
わざとらしくプレゼント内容を零す。彼は怪しい笑みを浮かべたまま、残りの団子を口に含んだ。銀時もそれに倣い、あとは黙って美味しい団子を食す。サンタの話は、もう終わり。
24日、クリスマスイヴ。今年はまだ雪もない。万事屋の食卓には、銀時が気合を入れて作った豪華なクリスマスケーキ。この家にあるのが非常に珍しいチキンは、妙が奮発して買ってきた。新八が自宅の倉庫から持ってきた小さなツリーセットは居間に飾られている。慎ましくも煌びやかなクリスマス。子供二人は始終はしゃいだ様子を見せた。
「銀ちゃ・・ねむいヨ・・・」
はしゃぎ疲れた神楽が目を擦る。商店街で貰ったサンタ帽子をずるり、頭から落としてフラフラ。
「あらあら、神楽ちゃんたら」
「しょうがねーなぁ・・・ほら、倒れんなよ」
「ん〜・・・」
大人しく押入れに収まって、神楽はそのまま眠りについた。時刻はまだ、二十二時前。
「じゃあ新ちゃん、帰りましょうか」
「そうですね」
神楽の就寝をきっかけに、パーティもお開きとなる。また明日、なんて挨拶を交わして、家主だけになった部屋はひどくがらんどうに感じた。なんていうか、祭りのあとの静寂って、感じ。思っていたより寂しいもんだ。
「・・さて、と」
一つ静かに気合を入れて、カスしか乗っていない皿を片付ける。多少の物音じゃ一度寝付いた神楽は起きないから、それほど静かにと気をつけてやる必要もない。皿を仕舞って、机をキレイにして、
「ああ、そうだ・・」
忘れるとこだった。戸棚の奥に隠しこんでいた酒とつまみを取り出す。全て机に置いて部屋の電気を消してしまえば、チカチカと小さなツリーの電飾が静かに存在を主張する。こいつを見ながら静寂に包まれて酒を飲むのも、きっと美味い。だけど銀時は一切手を付けず、ソファに体を沈ませてその時を待った。窓は全て閉まってる。でも、玄関の戸は開いてるよ。
「・・・チッ」
僅かな舌打ちの音に、緩んでしまう顔の筋肉をどうにか押え付けて、
「どーも、サンタさん」
いらっしゃい、律儀で優しい黒髪のサンタさん。両手に抱えた重そうな紙袋にしっかりと巻かれた赤と緑のリボンが目に入って、銀時は今度こそ声をたてて笑った。
メリークリスマス!